ダンナが美容院で散髪に行った帰り、聞いてきた。
「水戸の近くのオーアライってところ、知ってる?」
知ってる。
成田空港から水戸にバスで行くと、途中大洗ICで停車する。
数ヶ月前にはこれを利用して、ダンナを見送った後実家に戻る途中にここで降りて回転寿司食べて日帰り温泉に入った。
知ってると答えると、ダンナが言う。
「美容師の人が、今度彼女とその大洗っていうところにあんこう食べに行くんだってさ」
そうそう、茨城の冬の味覚といえば何といってもあんこう。何年か前に五浦(いずら)温泉に行った時に「あんこう尽くし」を食べた。
「俺たちもあんこう食べに行こうよ」
おお、そう来たか。
が、ダンナはその美容師さんがあんこうを大洗のなんという店に食べに行くのかまでは聞いていなかった。私自身、大洗で食べたところがある場所といったら前述の回転寿司だけだから、あんこうのおいしい店は知らない。で、魚市場の回転寿司がおいしかった話をしたら、「じゃあお昼に軽く回転寿司食べて、夜にあんこう食べよう」ということになった。
そこで水戸の両親とも打ち合わせたが、両親が大洗に来るとなると車になるから父が飲めない。というわけで、大洗は回転寿司であんこうは水戸、ということに決まった。
というわけで、大洗。
月曜朝、9時前に家を出て、日比谷線で上野に向かい、JRに乗り換える。10時の特急スーパーひたち乗車が目標だったが、早めに駅に着いたので、9時半のフレッシュひたちがまだプラットフォームで待っていたところに飛び乗った。水戸着は10時47分。私が子供の頃は常磐線は各駅停車しかなかったので、電車で水戸に行くとえらく時間がかかったが(ちなみに当時は自動車道も整備が進んでいなかったので、車で行ってもやっぱり時間がかかった)、今では特急で1時間ちょっとで着いてしまうからすごい。水戸駅で鹿島臨海鉄道大洗鹿島線に乗り換える。JRではないから一度改札を出なくてはならないのかと思っていたが、出ずにそのまま乗り換えることができるようだ。ちょうど待っていた電車に乗ってみて理由がわかった。まるでバスみたいに車内に料金箱がある単線ローカル電車なのだった。無人駅対応で、切符がなくても現金で乗車できるのだ。袋田の滝に行くJR水郡線もこれは同じだ。
大洗駅は有人なので、車内の料金箱は利用することなく終わったが、改札で係員に現金で料金を払って出ることができる。が、改札に至る前にダンナの足が止まる。プラットフォームを降りて改札に向かう通路に、フクロウの剥製が飾ってあったのだ。ダンナは子供の頃に父親の指導で野鳥観察を覚えたバードウォッチャーだ。今回の旅もしっかり双眼鏡持参で来ている。剥製の観察には双眼鏡はいらないが、最近買ったばかりの一眼レフカメラも持参しているので、さっそく写真撮影が始まる。この通路、剥製を置いたテーブルの下には木のベンチが置かれ、ていねいなことに座布団まで並べられている。待合室代わりなのだろうか?さらには駅でレンタサイクルも併営しているようで、この通路はレンタサイクルの自転車置き場プラス申込み書記入エリアもかねているのだった。

写真撮影してトイレに行って、改札を出たのは下車20分ほど経った後になった。駅は町の中なので、地図を頼りに海の方角に向かう。目指す回転寿司屋にたどり着いた時にはもう11時半頃になっていた。おなかも空いたし、まっすぐお店に入る。

この回転寿司屋は、大洗漁港の市場前にある「お魚天国」という施設の一角に入っている。隣は鮮魚や魚介加工品、その他海産物、さらには産直農産物などを売るお店。そしてその前には焼きイカ、焼きウニ、焼き牡蠣、焼きハマグリ等の屋台が並ぶ。アンコウ汁もある。そっちもおいしそうだが、通り過ぎて回転寿司の店内へ。
私たちが入ったときは、他には1人しか客がいなかったが、たぶん開店直後だったようで、まだコンベヤベルトには値札の皿しか流れていない。が、座って注文を始めるうちにもどんどん人が入ってきた。平日でもけっこうにぎわっている。

漁港に面した回転寿司屋だけあって、ネタは新鮮で素直においしい。そして、シャリが小さめなのでたくさん食べられる。値段もお手ごろなのでたくさん食べてしまう。
はっと気づくと、「昼は軽く回転寿司を食べて夜にあんこう」の予定だったのが、2人の前に皿14枚。しかもこの皿、3貫盛りになっていたものもあったからけっこうがっつり食べている。ちなみにこの板前おすすめ品の3種3貫盛り、いろいろありますがどれもおすすめですよ。

腹ごしらえが済んだところで、大洗海岸を散策。まず目指したのは展望台がある「マリンタワー」。マリンタワーの前の公園にはステージ状に舗装されたエリアがあったが、何に使うんだろうか。夏には海水浴で賑わう大洗も、シーズンオフの平日とあって静かなもの。タワー内に初めて入ったが、2階のカフェは休業。展望台からは大洗の町並みの向こうに筑波山、そしてその向こうの南アルプスの山並みが見える。手元の案内図と眺めを見比べたダンナは「あれが富士山だな」などと言うが、この午後の霞じゃさすがに富士山は見えないでしょ。第一あれ、富士山の形してないし、今ならまだ頂上に積もってるはずの雪もないし。しかし「あれは筑波山」と言う私に対し、彼は「いや、あっちが筑波山でこれは富士山」と譲らない。まあいいんだけどね。展望台の反対側に行くと、大洗ビーチから海岸線がずーっと続いているのが見える。それが水平線にかすむあたりになにやらぴょこぴょこと頭を突き出しているのが鹿島コンビナートだそう。その向こうは犬吠埼、と案内図にはあるが、かすんでいて見えない。こういう展望台には、晴れた冬の朝に来るのがいいんでしょうね、とそういえば都庁でも思ったなあ。

マリンタワーのあとはビーチを目指す。途中にショッピングモールみたいなものがあった。大洗リゾートアウトレットというらしい。わりと新しそうな施設だ。中庭を囲む回廊式の建物は、地中海をイメージしたようなデザイン。それともアメリカ西海岸か?

それを通り過ぎると、大洗わくわく科学館。奇抜な形と色は子供向けを想定した施設なのだろう。よく見ると、日本原子力研究開発機構の運営だとある。そうダンナに説明すると「『放射能は楽しいね!』とかいう展示やってんのかなー」などと笑う。が、確認に中に入ることはせず、ビーチに向かった。夏には賑わう大洗ビーチもオフシーズンの平日では閑散としているだろうと思ったら、意外とそれでも波と戯れる人、犬と散歩する人、子供づれ、サーファーなど予想よりも人は多かった。このあたりはハマグリの保護区だそうだが、潮の引いた砂浜には貝殻がそこらじゅうに落ちている。私は砂浜に貝殻の桜をつくって遊び、ダンナはカメラを双眼鏡に持ち替えて鳥を眺める。子供の頃から父親に野鳥観察を教えられて育ったバードウォッチャーなので、イギリスとは違う種類の野鳥も多い日本でのバードウォッチングが楽しいらしい。「あれはlittle ringed ploverという鳥」などと教えてくれる。私には足のひょろ長いスズメにしか見えないが、チドリの一種らしい。動き方がスズメとは違う。そういや浜といえば千鳥っていうよね。ヒバリのさえずりが聞こえる。ヒバリは英国では数が激減しているらしく、ヒバリの歌を聞くことも減っているそうでダンナはうれしそうに双眼鏡で空のヒバリの姿を探していた。のどかな午後だが、だんだん日が落ちてくるにつれて風が冷たくなってきた。水戸駅で両親と待ち合わせすることになっていて、大洗鹿島線は単線のローカル線なので本数は多くないから、電車に間に合うように早めに大洗駅に戻った。田んぼを抜けるルートを走る線路は高架になっている。全線高架で線路を引くのはかなり大変な工事だろうになぜかなあ?とダンナが聞く。私も知らない。
日帰りで東京に戻るということで、夕食は早めに予約してあった。水戸駅でコーヒーを飲んでから両親と落ち合い、南口のホテルテラスザガーデン水戸へ。ここの1階の「わさびの花」という居酒屋に入る。ここは全室個室になっていて話がしやすく、料理もけっこうおいしいので、友人が訪ねてきたときなどに両親がよく利用しているらしい。3月の終わりまではあんこう鍋もやっているということで、滑り込みセーフであんこう鍋を予約した。
4人での食事だが、前述の五浦温泉のあんこう尽くしで「あんこう鍋なんてそんなにおいしいもんじゃないよね」との結論に達していた母の案で鍋は3人前でお願いし、他にもいろいろ母のすすめるままに注文してみた。

写真は左があんこう鍋、そして右があんこうが煮えるのを待つ間に食べた和牛の石焼き。さっぱりしたたれにつけて食べるが美味だった。そしてあんこう鍋がこちら。

これが予想を裏切るおいしさだった。五浦で食べたあんこう鍋は味付けが濃くてあんこうの味も何もわからなかったが、こちらは薄味のだしであんこうと野菜、豆腐などを煮る。この味加減がちょうどよかった。チェーン居酒屋だと思ってなめちゃいけませんね。いや驚き。しっかり食べて、お酒も飲んで満足したところで、スーパーひたちで東京に戻りました。